特別対談 Vol.1

リーダーズトーク 「地域とともに」
県内に本社や拠点を置く企業・組織のトップを招き、世界の激動期におけるさまざまな課題に立ち向かう決意や将来展望を静岡新聞社トップが聞く静岡新聞創刊75周年記念特別対談シリーズ「リーダーズトーク〜地域とともに」。第6回のゲストは東海大学の山田清志学長。山田学長と大石剛静岡新聞社代表取締役社長が地域での役割や人材育成、将来展望などについて語り合った。〈企画・制作/静岡新聞社営業局〉
※本対談は静岡新聞創刊75周年記念特別対談として静岡新聞(2016年10月29日朝刊)に掲載された記事を転載したものです。

世界の平和と繁栄に貢献できる人材を育成

リオ五輪で大活躍 その成果を東京へ

大石:最近行われたリオ五輪・パラリンピックでは、東海大学の現役学生やOBの選手の皆さんが大活躍されましたね。

山田:リオのオリンピックで日本が獲得した金メダル12個のうち三つが本学関係者によるもので、その成果を大変誇らしく思っています。 また、パラリンピック自転車競技で銀メダルを獲得した本学OB藤田征樹選手の活躍は、学生たちを大いに勇気づけてくれました。 これまでも、本学は副学長で柔道の山下泰裕教授をはじめ世界を沸かせたアスリートをたくさん輩出しています。

しかし、2020年の東京五輪を考えた時、トップレベルのアスリートの育成だけでなく、その経験やノウハウを社会に還元しながら、大学として地域貢献や社会貢献にどうつなげていくかが重要です。 そのためには、本学園がもっている総合学園の機能をフルに活用して、子供から高齢者までがスポーツに親しみ健康で生活できる社会、またその担い手となる人材の育成が不可欠だと考えています。

建学の地・清水に国内初の海洋学部

東海大学の建学の地にある清水キャンパス。海洋学部をはじめ認定こども園、
小学校、中学校、高校までそろう=静岡市清水区折戸

大石:静岡新聞は2016年12月に創刊75周年を迎えますが、東海大も2017年11月で学園創立75周年となり、同じ静岡の地でほぼ同時期に歴史を重ねてまいりました。 今や「全国区」となった東海大にとって、静岡とはどのような地域なのでしょうか。

山田:東海大学は1942年、現在の清水区折戸に開校した航空科学専門学校を前身としています。 本学の「建学の歌」(松前重義作詞・信時潔作曲)には、「声なく教う富士ケ岳/三保の松ヶ枝下にして 我等が母校ここにあり」と、静岡の風景がはっきりと詠(うた)われており、建学の地として特別な意味を持っています。

とりわけ静岡には、幼稚園から小学校、中学校、高校、短大、大学、大学院まで全ての段階の教育機関がそろい、さらに海洋科学博物館など社会教育の場を含め、理想的な一貫教育が実現されています。

静岡新聞社 大石 剛
代表取締役社長

大石:海洋学部のある清水キャンパス(静岡市清水区折戸)は、目の前に駿河湾が広がり、富士山の雄大な姿も一望できます。 海洋を中心に地球全体を学ぼうという学生たちにとって、まさに理想的な環境なのではないでしょうか。 施設・設備の充実度は国内でもトップクラスだそうですね。 海洋学部の特色について具体的にお聞かせください。

山田:海洋学部開設にあたっては、当時の文部省(現文部科学省)は「海洋学」という学問はないと海洋学部の名称を認めませんでした。しかし、創立者の松前重義は、太平洋戦争は資源を陸に求めた結果起きたとの反省に立ち四方を海に囲まれた日本は海洋に資源を開発し、「海洋立国」を目指すべきと、海洋の将来性と重要性を熱心に説きました。こうしてわが国初の海洋学部が誕生したのです。

海洋学部では「望星丸」という海洋調査研修船を所有していますが、これは日本の私立大学では唯一です。その母港は清水港です。さまざまな調査研究だけでなく、この望星丸で諸外国を約40日間にわたって研修する海外研修航海は毎年清水港から出航しています。 東海大学全学部と短期大学の学生が対象で2017年48回目を迎えますが、限られた船内生活を通じて協調性や社会性を育み、また国際交流を通じて広い視野を養う本学園独自の研修制度となっています。

海洋科学博物館をより高度な研修の場に

国内私立大学唯一の海洋調査研修船「望星丸」

大石:東海大学と静岡市、商工会議所、静岡大、JAMSTEC(海洋研究開発機構)などと連携した取り組みについてご紹介願えますか。

山田:JAMSTEC関係者を本学大学院の客員教授として招へいし、海洋資源や地球科学の分野で探査船「ちきゅう」などの調査研究成果を活用するとともに、本学の研究者や学生らと一緒に研究することに意義を見いだしていただいています。 包括連携協定を結んでいる静岡市とは次世代の海洋学習の場づくりについて協議を重ね、アクセスの良い清水区日の出地区に拠点整備される新たな構想にソフト面での支援を行う予定です。 三保の海洋科学博物館は、海洋研究のより高度な研修の場にしたいと考えています。

建学 75周年を機に真の多文化共生促進

大石:松前氏が掲げた教育理念が「文理融合」と伺っています。 知識偏重教育を取らず、幅広い視野と柔軟な発想力を持つ人材の育成を目指しておられるそうですが、具体的にはどんな教育を重視なさっていますか。

山田:学長を拝命して以来、建学の原点に立ち返り、文系と理系の調和、現代人に求められる文明観、歴史観を育む教育を大切にしたいと考えてきました。 建学の理念や文理融合の考え方を具現化したのが「現代文明論」という本学の教養教育の中核になる科目です。 これをコアにしながら、これまで各キャンパスが個別に実施していた教養教育を2018年度以降、全学統一カリキュラムにし、より実をあげていきたいと考えています。 現代社会はさまざまな課題を抱え揺れ動いていますが、それだけに時流に迷うことなく確固とした世界観、人生観を持った人材を育成したいですね。

東海大学 山田 清志 学長

また世界に目を向ける大切さについても本学は早くから教育において実践してきました。 先ほどの海外研修航海もその一つですが、現在、世界39カ国・地域の123大学・機関と学術交流協定を結び、研究交流、人材交流、留学生交換などを行っています。 わが国の大学は伝統的に欧米諸国との交流が活発ですが、本学は長年、北欧をはじめロシア、東欧、中東、東南アジア諸国などと広く交流の道を開いてきました。 冷戦時代に初めて外国の船舶としてロシア極東のウラジオストク港に入港を許されたのも本学の望星丸です。まさに政治の壁を超えた交流を展開してきました。

現在は特にサウジアラビアなど中東諸国に門戸を開き、留学生の受け入れを活発に進めています。 世界人口の3分の1を占めるイスラム教の人たちと交流を深めることは、これからの世界情勢を考えれば当然のことだという認識です。 キャンパスで学生たちが日常的に交流することで真の多文化共生と相互理解が促進されると思いますし、さらにその環境整備に努めていきたいと考えています。

大石:75年という歴史を伝統として受け継ぐことも大切ですが、その一方で大胆なパラダイム転換で発展を期すことも大事だと思います。現代社会はめまぐるしく変化していて、将来の予測が難しくなってきています。 それでも敢えてお尋ねしますが、25年後の創立100周年に東海大学はどんな教育機関になっているのか、あるいはどのようになってほしいかお聞かせください。

山田:建学75周年は100周年に向けたスタートです。 創立者松前重義が目指した世界の平和と安定に貢献できる人材の育成に、さらに取り組んでいきたいと思います。グローバルという言葉ははやり言葉のようになっていますが、グローバルとは宇宙から地球を見た時の表現なのだと、松前重義は今から40年前にこの言葉を使って国際平和の重要性を説いています。 宇宙から見た地球に国境などどこにもありませんね。そうした意味で私たちはグローバル人材の育成を目指すものです。

またその一方で、国内や地域社会に目を向けた時、人口の高齢化や地域創生は大きな課題です。 地域創生に関しては、全国の各キャンパスで「To-Collabo(トコラボ)」というパブリックアチーブメント型の教育プログラムを展開し、さまざまな地域連携事業に取り組んでいます。 これは、文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」にも採択されています。

一方、健康福祉の問題は、高齢化や医療費抑制の問題とも関連してこれから深刻な問題となっていくと思います。 幸い本学は医学部、健康科学部、体育学部などを持ち、この分野のエキスパートがたくさんおります。 そうした知の連携のもとに新しい分野の開拓に取り組みたい。その一つとして現在の健康科学部を2018年度に健康福祉を専門とする健康学部(仮称、設置計画中)に改組したいと計画しています。 これからニーズの高まる社会の幅広い分野で健康をマネジメントできる人材を育成していきたいですね。

さて、25年後の東海大学ということですが、先般発表された英国の世界評価機関「Times Higher Education(THE)」と「Quacquarelli Symonds(QS)」による最新の大学評価ランキングの両方で、上位5%以内にランクインされている日本の私立大学は、東海大学をはじめ慶應義塾大学、早稲田大学などの6校だけで、これはわが国の私立大学の約1%です。こうした評価を確固としたものにし、世界にその存在感を示すことができる大学でありたい、これが私の描く東海大学100年の姿です。

大石:ともに25年後に輝かしい100周年を迎えられるよう頑張ってまいりましょう。 本日はどうもありがとうございました。

Profile

大石 剛(おおいし・ごう)
静岡新聞社 代表取締役社長
1992年成蹊大学法学部卒業。1998年株式会社静岡新聞社・静岡放送株式会社入社。報道局、編成局、社長室、東京支社次長、編集局長などを経て、2009年静岡新聞社取締役、2011年常務取締役、2012年代表取締役社長に就任、現在に至る。静岡商工会議所副会頭、静岡県広告協会会長などの要職にある。東京都出身。47歳。
山田 清志(やまだ・きよし)
東海大学 学長
1980年早稲田大法学部卒、2003年東北大大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻博士課程を満期退学。東海大法学研究所助手を経て、1994年教養学部助教授。米ホノルルの東海大パシフィックセンター所長、東海大法人企画調整室国際部長などを歴任。2004年に東海大教養学部人間環境学科教授、国際戦略本部本部長、副学長などを経て常務理事となり、14年10月学長に就任。北海道出身、61歳