寺尾保長距離・駅伝アドバイザー(スポーツ医科学研究所教授)

選手たちの努力や成長を可視化 科学的なデータで選手たちをサポート

――今年度も練習中や合宿、レースなどで選手たちの成長を科学的にサポートされていますが、寺尾教授から見て選手たちの成長をどのような点に感じますか?

今年度も普段の練習中から、選手一人ひとりの心拍数と動脈血酸素飽和度(SpO2)を計測しています。SpO2とは、酸素と赤血球中にあるヘモグロビンとの結合の割合を表す数値で、酸素がどの程度、生体内に行き渡っているかがわかります。これによって選手ごとの生体負担度、つまり一つの練習でどれだけ自分を追い込むことができたのかを判定できます。今年は練習後に計測したSpO2の値が低くなる選手が多く、一つひとつの練習に、よりこだわりを持ちながらしっかりと自分を追い込むことができているという印象です。チームの選手層が厚くなり、練習でも失敗できないというプレッシャーがよりよい練習や雰囲気をつくっているのでしょう。選手たちには、低圧室などでの練習後に自分がどれだけこの練習で追い込めたかや成長の具合を図表にして説明しています。自分の成長が数値として可視化できるようになり、より練習に対して意欲的になっていると感じています。

――昨年度の箱根駅伝は10位でした。この成績はどのように分析されましたか?

箱根駅伝はシーズンの集大成を披露する場であり、他のレースにはない沿道の盛り上がりがあります。昨年度は、一部の選手が箱根駅伝の雰囲気に飲まれてしまい、自分の実力を発揮できませんでしたね。自身の力を発揮するためには、自律神経系のバランスを保つことが大切です。自律神経には交感神経と副交感神経がありますが、交感神経が活発なほど興奮状態にあり、落ち着きを欠いてしまいます。レースの序盤から交換神経が活発だと終盤までエネルギーを維持できず、ラストスパートに使う推進力を失ってしまうのです。逆に副交感神経が亢進し過ぎているときには落ち着きすぎている状態で力を出し切れない状態になります。昨年度の悔しい結果は交感神経が過敏に亢進したことが原因の一つであり、今年度は選手たちに「自律神経のバランスを保ってスタートラインに立つことが大切」だと話しています。

――今年度の箱根駅伝ではどのような走り、成績を期待していますか?

チームには大学駅伝界を代表する選手が数多く在籍しています。この環境は私の研究にとって、よりよい成果を出す絶好のフィールドであると同時に、最新の研究をチームにフィードバックすることにもつながっています。選手たちの努力を後押ししながら、私自身も箱根駅伝の総合優勝を夢見るようになりました。その目標を目指して努力を積んできた選手たちには成し遂げられるだけの能力を身につけていますし、箱根駅伝で自分の力を存分に発揮してほしいですね。総合優勝に向けて、残された期間もしっかりとサポートしていきます。

てらお・たもつ 1950年福井県生まれ。医学博士。東海大学医学部講師を経て、95年にスポーツ医科学研究所に着任。2005年度から2015年度まで所長を務める。専門は運動生理学。駅伝チームの夏合宿やレース会場にも帯同し、医科学データを基に実際の大会成績との比較検討を行っている。

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